ゴッホ「ゴッホの椅子」とは?パイプを置いた黄色い椅子と「ゴーギャンの椅子」
ロンドンのナショナル・ギャラリーにある、誰も座っていない素朴な椅子の絵

「ゴッホの椅子」とは
赤茶色のタイルの床に、黄色い木の椅子がひとつ置かれています。い草で編んだ座面の上には、パイプとたばこの袋。誰も座っていない椅子だけを描いた、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853〜1890年)の「ゴッホの椅子」です。
所蔵はロンドンのナショナル・ギャラリーです。館の記録によると、1888年に描かれ、カンヴァスに油彩で、大きさは縦91.8cm、横73cmです。署名があり、1924年にコートールド基金で買い入れられました。
館は、この絵をゴッホのもっとも象徴的な絵のひとつとしています。描かれたのは1888年の終わり、画家のポール・ゴーギャンが南フランスのアルルに来てまもない頃でした。この絵には、対になるもう1点の絵があります。アムステルダムのゴッホ美術館にある「ゴーギャンの椅子」です。

制作の背景、黄色い家に2人の椅子
1888年10月23日、ゴーギャンがアルルに着き、ゴッホが借りていた黄色い家で一緒に暮らしはじめました。ナショナル・ギャラリーによると、ゴッホが2つの椅子の絵に取りかかったのは、その翌月の11月です。
館は、描かれた椅子は、ゴーギャンが来るのに備えてゴッホが9月に買いそろえた12脚の椅子の一部だったかもしれないとしています。ゴッホはその頃、モーリス・ド・フルーリの「モダニストの家」という記事を読み、自分の「画家の家」の部屋を、住む人の人柄が表れるように飾りつけ、家具をそろえていました。
館によると、この素朴な椅子は、1880年代にゴッホがオランダで描いた農家の椅子を思わせます。そして、よく似た椅子が2脚、同じ1888年に描いた「寝室」(ゴッホ美術館)にも描かれています。上の絵がその「寝室」で、黄色い家の2階にあったゴッホの部屋です。オルセー美術館の「アルルの寝室」も、同じ部屋を描いた絵です。

技法と色彩、昼の光の中の黄色い椅子
1888年11月19日ごろ、ゴッホは弟テオへの手紙に、2つの椅子の絵をこう説明しています。「最近の2つの習作は、なかなかおもしろい。30号のカンヴァスで、壁を背に赤いタイルの上に置いた、全部黄色の木とわらの椅子(昼)。それから、ゴーギャンの肘掛け椅子。赤と緑で、夜の効果。壁と床も赤と緑で、座面には小説が2冊とろうそく」(une chaise en bois et en paille toute jaune sur des carreaux rouges contre un mur (le jour).)。
ナショナル・ギャラリーによると、背もたれがまっすぐで肘掛けのないこの椅子は、磨いていない木を黄色く塗り、い草の座面を付けたものです。がっしりして見えますが作りは粗く、たとえば脚の向きは少しずれています。
椅子のうしろの左には、「Vincent」と署名された低い箱があり、芽を出した球根が入っています。館は、玉ねぎかもしれないとしています。右には青い扉の一部が見え、大きな蝶番の線が、椅子の脚の線と響きあっています。
館は、この絵の椅子が南フランスの明るい昼の光の中に描かれていると説明しています。芽を出した玉ねぎは、ゴッホにとっての自然の大切さを思い出させるもので、箱の「Vincent」の名前がそのつながりを強めているとしています。




対になる「ゴーギャンの椅子」、昼と夜
アムステルダムのゴッホ美術館にある「ゴーギャンの椅子」は、館の作品ページによると、1888年11月にアルルで描かれました。カンヴァスに油彩で、大きさは縦90.5cm、横72.7cmです。
館は、この絵をゴーギャンの「肖像」だと紹介しています。座面に置かれた新しい小説と、火のついたろうそくが、その場にいない画家の人柄を表しています。ゴッホは主に赤と緑を使って、夜の雰囲気を出そうとしました。磨かれた木の椅子の青っぽい影や照り返しは、うしろの壁に見えるガス灯の光によるものです。
ナショナル・ギャラリーによると、2つの絵は並べて掛けるための対の絵で、一方の椅子は右を、もう一方は左を向いています。ゴッホの椅子は素朴で実用的な作り、ゴーギャンの椅子は優雅で細かい彫りのある肘掛け椅子です。昼の光と夜の灯り、パイプと小説。2つの椅子は、2人の画家の人柄と、絵についての考え方の違いを表していると館は説明しています。
ゴッホ美術館は、2人がこのあとまもなく言い争い、別々の道を歩んだと書いています。

空の椅子と、ディケンズの版画
ナショナル・ギャラリーによると、ゴッホはゴーギャンとの共同生活を、新しい画家の仲間づくりの第一歩にしたいと考えていました。しかし1888年12月23日の争いのあと、ゴッホは自分の左耳の一部を切ります。ゴーギャンはパリに戻り、2人が再び会うことはありませんでした。
館によると、2週間の入院を終えて家に戻ったゴッホは、自分の椅子の絵に少し手を加えました。ゴーギャンが去ったことで、2つの空の椅子の絵には切ない意味が加わりました。
ただし館は、空の椅子という題材は、それより前からゴッホにとって意味を持っていたかもしれないとしています。ゴッホは、1885年に父が亡くなったあと、父の空いた椅子を見て泣いたことを手紙に書いていました。
館はさらに、ゴッホがイギリスの画家ルーク・フィルズの版画「空の椅子」を大切にしていたことを紹介しています。1870年に雑誌「グラフィック」に載ったこの版画は、作家チャールズ・ディケンズの死をいたみ、亡くなった日の誰もいない書斎を描いたものです。ゴッホはその1部を持っていました。フィルズの版画と同じように、ゴッホの2つの椅子の絵にも、座る人は描かれていません。
同じ部屋に並ぶゴッホの絵
ナショナル・ギャラリーの作品ページによると、「ゴッホの椅子」は43番の展示室にあります。同じ43番の展示室には、ゴッホの「ひまわり」や「糸杉のある麦畑」なども並んでいます。
「ひまわり」は、ゴッホがアルルで描いた連作のひとつです。「糸杉のある麦畑」は、翌1889年にサン=レミの療養院で描いた絵で、同じ構図の絵がニューヨークのメトロポリタン美術館にもあります。黄色い家の時代から療養院の時代まで、ゴッホの変化を1つの部屋でたどることができます。
Museum Boxでは、フランス国立美術館連合(RMN-GP)のミュージアムグッズを扱っています。
「ゴッホの椅子」を見るには、ナショナル・ギャラリーとゴッホ美術館
「ゴッホの椅子」は、ロンドンのトラファルガー広場に面したナショナル・ギャラリーで見られます。館の案内によると、入館は無料で、展覧会によっては料金がかかります。開館は毎日10時から18時で、金曜日は21時までです。12月24日から26日と1月1日は休館です。入口はセインズベリー・ウィングです。
対になる「ゴーギャンの椅子」は、アムステルダムのゴッホ美術館で展示中とされています。入館料は大人25ユーロで、2027年1月1日から26ユーロになります。18歳未満は無料です。
展示室は替わることがあるので、出かける前に館のサイトで確かめてください。
Museum Boxでは、フランス国立美術館連合(RMN-GP)のミュージアムグッズを扱っています。アルル時代のゴッホ「アルルの寝室」のポスターや、「ローヌ川の星月夜」のスノードームなど、日常を彩るアートグッズをお届けします。
よくある質問
「ゴッホの椅子」はどこにある?
ロンドンのナショナル・ギャラリーが所蔵しています。館の作品ページでは43番の展示室にあります。対になる「ゴーギャンの椅子」は、アムステルダムのゴッホ美術館にあります。
「ゴッホの椅子」はいつ描かれた?
1888年の終わりです。ナショナル・ギャラリーによると、ゴーギャンがアルルに来た翌月の11月に描きはじめ、耳の事件のあと2週間の入院を終えてから、少し手を加えました。
「ゴッホの椅子」の大きさは?
ナショナル・ギャラリーの記録では、縦91.8cm、横73cmです。カンヴァスに油彩で描かれています。
椅子の上に置かれているものは何?
パイプとたばこの袋です。椅子のうしろの箱には「Vincent」の署名があり、芽を出した球根が入っています。ナショナル・ギャラリーは玉ねぎかもしれないとしています。
「ゴーギャンの椅子」との違いは?
ゴッホの椅子は素朴な木の椅子で、昼の光の中にパイプが置かれています。ゴーギャンの椅子は優雅な肘掛け椅子で、夜のガス灯の下に小説とろうそくが置かれています。2つの椅子は、2人の画家の人柄の違いを表しているとされます。
ゴッホの絵のグッズはどこで買える?
Museum Boxでは、フランス国立美術館連合(RMN-GP)のミュージアムグッズを販売しています。「アルルの寝室」のポスターや「ローヌ川の星月夜」のスノードームなど、日常を彩るアートグッズをお届けしています。