ゴッホ「ドービニーの庭」とは?広島にある最晩年の絵と、消された黒猫

ひろしま美術館にある、尊敬した画家の家の庭を描いた横長の絵

フィンセント・ファン・ゴッホ「ドービニーの庭」(1890年)広島、ひろしま美術館所蔵

「ドービニーの庭」とは

奥に横長の白い家、右には教会の塔。手前には、緑の芝生と白い花の咲く花壇が広がっています。フィンセント・ファン・ゴッホ(1853〜1890年)が、亡くなる年の1890年に、パリの北の村オーヴェール=シュル=オワーズで描いた「ドービニーの庭」です。

所蔵は広島市の中央公園にあるひろしま美術館です。館の所蔵作品ページによると、1890年、カンヴァスに油彩で、大きさは縦53.2cm、横103.5cmです。日本で見られる、ゴッホ最晩年の絵のひとつです。

題名のドービニーは、風景画家シャルル=フランソワ・ドービニーのことです。アムステルダムのゴッホ美術館によると、ゴッホは生涯この画家の絵を尊敬していました。ドービニーはオーヴェールに住んでいたことがあり、ゴッホは村に着くと、できるだけ早くその家と庭を見に行きました。

フィンセント・ファン・ゴッホ「ドービニーの庭」(1890年)左の木々と奥の白い家の部分。ひろしま美術館所蔵

制作の背景、ふきんに描いた最初の1枚

ゴッホは1890年5月、南フランスのサン=レミの療養院を出て、オーヴェール=シュル=オワーズに移りました。そして7月に亡くなるまでの約2か月のあいだに、多くの絵を描いています。

ゴッホ美術館によると、ゴッホが最初にドービニーの庭を描いたのは1890年6月です。上の絵がその1枚で、大きさは縦51cm、横51.2cmの正方形に近い絵です。館は、ゴッホがのちに、もっと大きなカンヴァスに2点を描いたと説明しています。

この最初の1枚には、変わった話があります。館によると、そのときゴッホは手もとにカンヴァスがなく、赤と白の縞のある、お茶用のふきんに描きました。ふきんに、鉛白と赤を混ぜた明るい桃色の下地を塗り、その上に緑の庭を描いています。桃色の下地は緑と強く対比していましたが、赤い顔料があせて、今は灰色に見えます。

1890年7月10日ごろ、ゴッホは弟テオ夫妻への手紙に、こう書いています。「3枚目はドービニーの庭。ここに来てからずっと考えていた絵だ」(Maintenant la troisieme toile est le jardin de Daubigny, tableau que je méditais depuis que je suis ici.)。

フィンセント・ファン・ゴッホ「ドービニーの庭」(1890年6月)アムステルダム、ゴッホ美術館所蔵。ふきんに描かれた最初の1枚です

技法と色彩、横長の画面に広がる庭

ひろしま美術館の絵は、横が縦の2倍ほどある横長の画面です。同じ1890年7月にオーヴェールで描かれた「カラスのいる麦畑」や「木の根」も、ほぼ同じ形の画面です。

画面の左には、うねるような筆の跡で描いた大きな木々があります。奥には横に長い白い家と、うしろの黄色い屋根の家、右には教会の塔が見えます。庭の芝生は、黄緑や黄色の短い筆の跡を、斜めに並べて描いています。

手前の花壇は、白い花と緑の葉が、青い縁どりの中にまとめられています。左下には、青みがかった植え込みと、道のように見える曲線があります。

フィンセント・ファン・ゴッホ「ドービニーの庭」奥の横長の白い家のディテールフィンセント・ファン・ゴッホ「ドービニーの庭」右奥の教会の塔のディテールフィンセント・ファン・ゴッホ「ドービニーの庭」白い花の咲く花壇のディテールフィンセント・ファン・ゴッホ「ドービニーの庭」左下の青い植え込みと芝生のディテール

バーゼルの絵にいて、広島の絵にいない黒猫

ゴッホがもっと大きなカンヴァスに描いた「ドービニーの庭」2点のうち、もう1点はスイスのバーゼルにあります。2点はほとんど同じ構図ですが、大きな違いがひとつあります。バーゼルの絵には、左下の芝生を横切る黒猫が描かれているのに、広島の絵にはいないのです。

広島の絵の同じ部分には、赤っぽい色で描き加えたような跡があり、専門家のあいだでさまざまに議論されてきました。

2008年10月3日、ひろしま美術館はこの謎についての調査結果を発表しました。当時の報道によると、絵にX線を当てて顔料を調べる分析で、その部分に黒に近い青緑で猫が描かれていたことがわかりました。さらに文献などから、1901年に別の画家が猫を塗りつぶしたと、ほぼ断定しています。

担当の学芸員は、一見いいかげんに描かれたように見える猫があると、当時の感覚では作品の評価が下がると考えて、描き加えたのではないかと推測していると報じられています。館は、開館30周年を機に行ったこの調査を、報告書「ゴッホ《ドービニーの庭》のすべて」にまとめています。

フィンセント・ファン・ゴッホ「ドービニーの庭」(1890年)スイス、バーゼルにあるもう1点。左下に黒猫が描かれています

オーヴェールで描かれた最晩年の絵

ゴッホは1890年7月10日ごろの同じ手紙で、「ドービニーの庭」の前に描いた2枚についても書いています。「荒れた空の下の、広大な麦畑」で、「悲しみや、ひどい孤独」を表そうとしたと書いています。そして、これらの絵は、自分が田舎に見ている健やかで力づけるものを伝えてくれるだろう、とも書いています。

アムステルダムのゴッホ美術館は、所蔵する「カラスのいる麦畑」について、ゴッホがこの「悲しみや、ひどい孤独」を表そうとしたと、この手紙の言葉を引いて紹介しています。同じ館の「木の根」は、館がゴッホのおそらく最後の絵としているもので、こちらも横長の画面です。

「ドービニーの庭」は、こうした最晩年の絵の中で、尊敬した画家の庭を、花と緑でおだやかに描いた一枚です。

Museum Boxでは、フランス国立美術館連合(RMN-GP)のミュージアムグッズを扱っています。

「ドービニーの庭」を見るには、ひろしま美術館とグッズ情報

「ドービニーの庭」は、広島市中区の中央公園にあるひろしま美術館が所蔵しています。2026年11月4日に見た時点で、館のサイトの「貸出中の作品」の一覧には入っていません。展示されているかは、出かける前に館に確かめてください。

館の案内によると、開館は9時から17時(入館は16時30分まで)で、月曜日は休館です(祝日の場合は翌平日、特別展の会期中は開館)。2026年10月3日から2027年1月11日までは、特別展「“カフェ”に集う芸術家 印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで」が開かれています。この期間の入館料は一般2,200円で、特別展の入館券でコレクション展示も見られます。11月16日は展示替えで休館、2026年12月29日から2027年1月2日は年末年始の休館です。

Museum Boxでは、フランス国立美術館連合(RMN-GP)のミュージアムグッズを扱っています。ゴッホ「星月夜」をモチーフにしたスノードームやポスター、扇子など、日常を彩るアートグッズをお届けします。

よくある質問

ゴッホの「ドービニーの庭」はどこにある?

日本のひろしま美術館が所蔵しています。ほとんど同じ構図のもう1点はスイスのバーゼルに、最初に描いた正方形に近い1点はアムステルダムのゴッホ美術館にあります。

「ドービニーの庭」はいつ描かれた?

1890年です。ゴッホ美術館によると、ゴッホは6月に最初の1点を描き、そのあとで大きなカンヴァスに2点を描きました。1890年7月10日ごろの手紙にも、この絵のことが書かれています。

ひろしま美術館の「ドービニーの庭」の大きさは?

館の所蔵作品ページでは、縦53.2cm、横103.5cmです。カンヴァスに油彩で描かれています。

黒猫が消されたって本当?

ひろしま美術館は2008年に、ゴッホが描いた黒猫を、1901年に別の画家が塗りつぶしたとほぼ断定する調査結果を発表しました。X線を使った分析で、黒に近い青緑で描かれた猫が見つかったと報じられています。

ドービニーとは誰?

風景画家のシャルル=フランソワ・ドービニーです。ゴッホ美術館によると、ゴッホは生涯この画家の絵を尊敬していて、オーヴェールに着くとすぐにその家と庭を見に行きました。

ゴッホの絵のグッズはどこで買える?

Museum Boxでは、フランス国立美術館連合(RMN-GP)のミュージアムグッズを販売しています。ゴッホ「星月夜」をモチーフにしたスノードーム、ポスター、扇子など、日常を彩るアートグッズをお届けしています。