ゴッホ「子守唄(ルーラン夫人)」とは?見えないゆりかごの綱を持つ、郵便配達人の妻
ニューヨークのメトロポリタン美術館にある、花模様の壁紙の前に座るルーラン夫人

「子守唄」とは
花模様の壁紙の前で、緑の服の女性が椅子に座り、手を組んでいます。その手には、赤と黄色のよった綱。綱の先は画面の外に続いています。フィンセント・ファン・ゴッホ(1853〜1890年)の「子守唄(ルーラン夫人)」です。
モデルは、アルルでゴッホの友人だった郵便配達人ジョゼフ・ルーランの妻、オーギュスティーヌ・ルーラン(1851〜1930年)です。メトロポリタン美術館によると、題名の「ラ・ベルスーズ」は、「子守唄」と「ゆりかごを揺らす女」の両方の意味を持つ言葉です。夫人が手にしている綱は、画面には見えないゆりかごにつながっています。
メトロポリタン美術館の1点は1889年の作で、カンヴァスに油彩、大きさは縦92.7cm、横73.7cmです。椅子の肘掛けに「vincent / arles 89」の署名があり、右下には「La Berceuse」と書かれています。

制作の背景、事件をはさんで描いた肖像
メトロポリタン美術館によると、ゴッホはルーラン夫人の肖像を、ほとんど同じ構図で5点描きました。描きはじめたのは、1888年12月、アルルでゴッホが心の病で倒れる直前でした。
1888年12月23日、ゴッホは自分の左耳の一部を切る事件を起こし、病院に運ばれます。2週間ほどの入院のあと、ゴッホは仕事に戻り、1889年のはじめにこの肖像を仕上げました。同じ頃には、耳に包帯を巻いた姿の「包帯をした自画像」も描いています。
ルーラン一家は、アルルでのゴッホにとって身近な人たちでした。ゴッホは郵便配達人ジョゼフ・ルーランをはじめ、夫人や子どもたちの肖像も描いています。2025年3月30日から9月7日には、ボストン美術館で「ゴッホ ルーラン家の肖像」展が開かれました。
技法と色彩、赤い床と花模様の壁紙
画面は、強い色の組み合わせでできています。夫人の服は深い緑、スカートは明るい青緑、床は赤です。うしろの壁紙は濃い緑の地に、オレンジの点と黄色の曲線、白や桃色の大きな花が散らされています。
顔は黄色やオレンジで描かれ、髪はオレンジと赤です。輪郭は濃い色の線でくっきり縁どられ、色の面がはっきり分かれています。
手を組んだ姿は落ち着いていて、目は少し伏せられています。ゆりかごは描かれていません。手にした綱だけが、画面の外のゆりかごを示しています。
メトロポリタン美術館によると、ゴッホは5点のうちこの1点について、夫人自身が選んだものだと書いています。ゴッホは「彼女は目がよく、いちばんよいものを選んだ」と述べたと館は紹介しています。




ルーラン夫妻の家からニューヨークへ
メトロポリタン美術館の来歴の記録によると、この絵はゴッホからルーラン夫妻に贈られました。夫妻はアルル、のちにマルセイユで、1889年から1900年までこの絵を持っていました。
1900年、絵はパリの画商ヴォラールの手に渡ります。その後、パリの画廊などを経て、1917年12月29日にチューリヒのタンナー画廊からスイスのバーゼルの収集家ルドルフ・シュテーヘリンに3万5千スイスフランで売られました。
絵はシュテーヘリンの財団に引き継がれ、1967年に画商を通じてアメリカのウォルター・アネンバーグ夫妻のものになります。1996年からはメトロポリタン美術館と共同で持つ形になり、今は館で展示されています。
モデル本人が選び、夫妻の家に掛けられていた肖像が、100年以上をかけてニューヨークの美術館にたどり着いたことになります。
アルルで描かれた身近な人々の肖像
アルルでゴッホは、身近な人たちをモデルにして、肖像画をくり返し描きました。ルーラン一家のほかにも、駅前のカフェの女主人ジヌー夫人を描いた「アルルの女」があります。
メトロポリタン美術館によると、ジヌー夫人もほとんど同じ構図で2点描かれていて、その1点はルーラン夫人の「子守唄」と同じく、メトロポリタン美術館にあります。
郵便配達人ジョゼフ・ルーランの肖像については、ボストン美術館の1点を中心に別の記事で紹介しています。
Museum Boxでは、フランス国立美術館連合(RMN-GP)のミュージアムグッズを扱っています。
「子守唄」を見るには、メトロポリタン美術館
メトロポリタン美術館の「子守唄(ルーラン夫人)」は、館の作品ページで822番の展示室に展示中とされています。同じ館には、「アルルの女(ジヌー夫人)」や「糸杉」などのゴッホの絵もあります。
館の案内によると、開館は10時から17時で、金曜と土曜は21時まで、水曜日は休館です。入館料は大人30ドルです。展示室は替わることがあるので、出かける前に館のサイトで確かめてください。
Museum Boxでは、フランス国立美術館連合(RMN-GP)のミュージアムグッズを扱っています。アルル時代のゴッホ「アルルの寝室」のポスターや、「ローヌ川の星月夜」のスノードームなど、日常を彩るアートグッズをお届けします。
よくある質問
ゴッホの「子守唄」のモデルは誰?
アルルでゴッホの友人だった郵便配達人ジョゼフ・ルーランの妻、オーギュスティーヌ・ルーラン(1851〜1930年)です。
「子守唄」はどこにある?
ゴッホはほとんど同じ構図で5点描いていて、そのうち1点がニューヨークのメトロポリタン美術館にあります。メトロポリタン美術館によると、夫人自身が選んだ1点です。
手に持っている綱は何?
メトロポリタン美術館によると、画面には見えないゆりかごにつながる綱です。題名の「ラ・ベルスーズ」には「子守唄」と「ゆりかごを揺らす女」の両方の意味があります。
いつ描かれた?
1888年12月、ゴッホが心の病で倒れる直前に描きはじめ、1889年のはじめに仕上げられました。メトロポリタン美術館の1点には「arles 89」の署名があります。
ゴッホの絵のグッズはどこで買える?
Museum Boxでは、フランス国立美術館連合(RMN-GP)のミュージアムグッズを販売しています。「アルルの寝室」のポスターや「ローヌ川の星月夜」のスノードームなど、日常を彩るアートグッズをお届けしています。